大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 平成12年(ネ)312号 判決 2000年12月14日

控訴人 B山松夫

被控訴人 A野花子

右訴訟代理人弁護士 立野省一

馬場基尚

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

三  原判決主文一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

第二事案の概要

一  原判決の引用

次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第二(二頁七行目から一三頁四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二頁七行目の「委任をした」を「委任した」に改める。

2  同六頁一〇行目の「したなかった」を「しなかった」に改める。

3  同七頁八行目の「法定相続分による」を「法定相続分により」に改める。

4  同一一頁末行の「被告(一郎)」を「被告ら」に改める。

5  同一二頁三行目の「援用権を喪失」を「援用権の喪失」に改める。

二  当審における主張

1  控訴人((一)及び(五)は新主張、(二)は新主張を含み、その余は補足的主張である。)

(一) 本件遺言は、民法一〇二三条により取り消されたものとみなすべきである。すなわち、亡太郎は、同人夫婦の養子であったC川竹夫を相続から除外するために本件遺言をした。しかし、本件遺言をした翌年である昭和五九年五月一一日に亡太郎夫婦とC川竹夫との間で離縁が成立した。したがって、亡太郎の本件遺言をした目的は右離縁により達成され、同人にとって本件遺言は不要のものとなった。そして、亡太郎は、死亡する一、二年前から癌であり、自分の死期を見つめつつ被控訴人を含む相続人に接触しながら、本件遺言書《証拠省略》を誰にも託さなかった。亡太郎の右行為からすれば、本件遺言は、民法一〇三三条により取り消されたものとみなすべきである。

(二) 本件遺言は、被控訴人を相続から除外したものではない。また、本件遺言は遺言執行者を指定しているから、遺言執行者以外の者が遺産分割をしてはならない。したがって、被控訴人を除く相続人らがした本件遺産分割協調は無効である。

(三) 控訴人が本件調停において遺留分減殺請求権を行使していたというべきこと、及び本件前訴の被告らが遺留分減殺請求権の消滅時効の中断、時効の利益の放棄又は時効援用権の喪失をもたらす債務の承認をしたことは、原判決「事実及び理由」第二の二1(二)(2)及び(4)のとおりである。

(四) 被控訴人は本件前訴の控訴状写しを控訴人に交付しており、控訴人と被控訴人の間において本件前訴の控訴審についての訴訟委任契約が成立していた。それにもかかわらず、被控訴人は、控訴人に対し委任状を交付せず、自ら控訴を取り下げ、本件前訴の敗訴判決を確定させ、右委任契約の履行を不可能にした。したがって、本件前訴における被控訴人の敗訴は控訴人の責任ではない。

(五) 本件遺言を無視して遺産分割協議をした亡太郎の相続人ら(被控訴人を除く。)が、亡太郎の死後六年を経過して隠れた相続人である被控訴人が出てきた場合に、作成されてから一二年を経過した本件遺言書により遺産分割を求めることは信義則に反する。

2  被控訴人

控訴人の右主張はいずれも争う。

第三当裁判所の判断

一  原判決の引用

当裁判所も被控訴人の本件請求は理由があるものと判断する。その理由は原判決「事実及び理由」第三の一及び二(一三頁六行目から二五頁四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決二〇頁三行目の「訴訟代理人」を「訴訟代理」に改める。

二  当審における主張について

1  控訴人は、本件遺言は、民法一〇二三条により取り消されたものとみなすべきである旨主張する。

そして、亡太郎が本件遺言をした後、同人夫婦は、昭和五九年五月一一日C川竹夫と離縁したことが認められる《証拠省略》。しかし、原判決を引用することにより示したとおり(原判決「事実及び理由」第三の一1(1))、本件遺言は、C川竹夫の相続分を零と指定しているから、右離縁が本件遺言と抵触する法律行為ということはできない。そして、他に、亡太郎が本件遺言の後にこれと抵触する遺言をしたこと(民法一〇二三条二項)及び本件遺言と抵触する生前処分その他の法律行為をしたこと(同二項)を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件遺言は同条により取り消されたものとみなすべきである旨の控訴人の主張は採用できない。

2  控訴人は、本件遺言書により被控訴人は相続から除外されたものではない旨主張する。しかし、原判決を引用することにより示したとおり(原判決「事実及び理由」第三の一1(一))、本件遺言は亡太郎のすべての財産を対象とし、かつ、明示的に指定した相続分の合計が一になるのであるから、明示的に記載されていない被控訴人の相続分を零と指定したものと解するのが本件遺言の合理的意思解釈である。

また、控訴人は、本件遺言は遺言執行者を指定しているから、遺言執行者以外の者が遺産分割をしてはならない旨主張する。しかし、遺言において遺言執行者が指定されているとしても、相続分を指定された相続人らが遺産分割協議をすること自体が妨げられる理由はない。

したがって、右各点を理由として、本件遺産分割協議が無効であるとする控訴人の主張は採用できない。

3  控訴人は、本件調停において遺留分減殺請求権を行使していたというべきである、あるいは、本件前訴の被告らは、遺留分減殺請求権の消滅時効の中断、時効の利益の放棄又は時効援用権の喪失をもたらす債務の承認をしていた旨主張する。しかし、これらの主張が採用できないことは、原判決を引用することにより示したとおり(原判決「事実及び理由」第三の一1(四)及び(五))である。

4  控訴人は、控訴人と被控訴人の間において本件前訴の控訴審についての訴訟委任契約が成立していたにもかかわらず、被控訴人は自ら控訴を取り下げ、委任契約の履行を不可能にしたのであるから、本件前訴において被控訴人の敗訴が確定したことにつき控訴人に責任はない旨主張する。

しかし、被控訴人が控訴人に対し控訴審における訴訟委任状を交付しなかったことは控訴人も自認するところであり、確定的に訴訟委任契約が成立していなかったものと考えるのが自然である。また、仮に、控訴人が訴訟委任を受けていたとしても、控訴審において、控訴人の主張が容れられる可能性はなかったものと認められることは、原判決を引用することにより示したとおり(原判決「事実及び理由」第三の一2)である。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

5  控訴人は、本件遺言を無視して遺産分割協議をした亡太郎の相続人ら(被控訴人を除く。)が、亡太郎の死後六年を経過して隠れた相続人である被控訴人が出てきた場合に、作成されてから一二年を経過した本件遺言書により遺産分割を求めることは信義則に反する旨主張する。

しかし、被控訴人を除く亡太郎の相続人らが、本件遺産分割協議をしたこと自体に問題はなく、また、右相続人らの間で本件遺言と異なる内容の遺産分割をすることも可能であることは、原判決を引用することにより示したとおり(原判決「事実及び理由」第三の一1(二))である。そして、本件遺言書が作成されてから長期間が経過していることをもって、本件遺言により被控訴人の相続分が零であることを主張することが信義則に反するということはできない。その他、右主張が信義則に反すると評価すべき事情を認めるに足りる証拠はない。よって、控訴人の右主張は採用できない。

三  結論

以上の次第で、被控訴人の本件請求を認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、原判決主文一項につき民事訴訟法三一〇条に基づき仮執行の宣言を付すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小田耕治 裁判官 田中俊次 松本利幸)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例